公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会

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ジャーナル

【掲載日】2023年01月24日(火)

[別冊]病院内の自殺対策のすすめ方 改訂版を発行しました

【発行日】 2023年01月発行

[別冊]病院内の自殺対策のすすめ方 改訂版

はじめに

 

 

 患者安全推進ジャーナル別冊「病院内の自殺対策のすすめ方 改訂版」の発刊に際して、発刊実務を担った「院内自殺の予防と事後対応に関する検討会」の座長として、その経緯について述べますとともに、その経緯から読者の皆様が病院内での自殺事故予防の重要性を感じ取っていただければ幸いです。

 

 2005年度から2年間、認定病院患者安全推進協議会に「精神科領域における医療安全管理検討会」(南良武座長)が設けられました。「精神科」とありますが、それは精神科病棟と精神科病院での医療安全に限定したものではなく、実際のところ、「精神・心理・行動科学的な問題が関与する案件」を扱う検討会であり、主要テーマとして、①患者の行動制限、②転倒・転落事故、そして、③入院患者の自殺事故、の3つが選ばれました。そして、南先生の御差配により、それぞれについて大規模な実態調査が行われました。結果は、「患者安全推進ジャーナル」に順次報告され、提言がなされました。筆者は、自殺対策専門家の立場で、主に入院患者の自殺事故の調査・提言作成に従事しました。

 

 入院患者の自殺事故は、それ以前には精神医学系の専門誌などで調査報告が散見されてはいたものの、全国レベルでの大規模な調査、かつ専門的で網羅的な調査は初のことであり、これだけの質と量の調査は世界初といえるものでした。折りしも、1998年に、日本では自殺者数が歴史に残る大激増をきたし、そのまま高止まりを続けていた時期でした。筆者は、そもそも病院は自殺のホットスポットだと考えていたことから、自殺激増の時勢にあって、日本全体でみるとかなりの自殺事故が院内で生じているのではないかと懸念していたのですが、果たして調査結果はそのとおりでした。そして、調査結果はテレビ・新聞などで大きく報道されました。特筆すべきことは、調査・提言作成に従事した私どもの提案を汲んで、認定病院患者安全推進協議会が、これを単なる調査・提言で終わらせることなく、自殺事故予防とスタッフケアのための研修会の立ち上げと事業化へと踏み込んだことでした。「予防に加えてスタッフケアとは?」と思う方もあるかもしれませんが、筆者は、当初から、自殺事故に遭遇した医療者のケアは、自殺事故予防と一体のものでなくてはならないと考えていました。

 

 全国規模の医療系団体がこのような研修会を事業化したのも、筆者の知る限り世界で初のことでした。この研修会のプログラムとテキスト開発のために、新たに、「院内自殺の予防と事後対応に関する検討会」が立ち上げられ、筆者が座長を務めることとなりました。検討会には、自殺対策専門家だけでなく、精神医学、看護、患者安全、病院管理、精神保健福祉(後にサイコオンコロジー、心身医学からも)などのさまざまな領域から専門家が参画し、テキスト(本誌初版)と、2日間にわたる研修プログラムが開発されました。この研修会は2011年に開始され、以後、2020年初頭から国内で拡大した新型コロナウイルス感染症による中断前までに、246病院から510名もの受講者が受講するに至りました。そして、前回自殺事故調査からちょうど10年後の2015年度中に、再度、認定病院患者安全推進協議会による病院内の自殺事故に関するアンケート調査が実施されました。詳細は本書内で示されていますが、10年を経て、医療者の働き方や職場を取り巻く環境の変化によるものなのか、自殺事故後のスタッフケアの状況に改善の兆しはみえるものの、自殺事故が著減したわけではなく、がん患者の自殺事故が初回調査の時よりも、さらに顕在化しているようにもみえ、課題山積の状況に変わりはないように思います。

 

 日本全体の自殺やメンタルヘルス問題を取り巻く環境としては、初版発行から今日に至るまで、さまざまな出来事がありました。まず、東日本大震災です。奇しくも、初版をテキストとして実施された第1回研修会の初日、2011年3月11日がその日でした。研修会場が高い階だったので、東京で生まれ育った私も、経験のない突き上げるような地震の始まりに、「ついに関東大震災が来た」と誤解しました。研修会は中断し、委員も受講者も、しばらく会場にとどまり、報道で状況を確認しながら、徒歩で各々が移動しましたが、委員のなかには、実家や職場が被災した方もありました。平成が令和へと変わり、2020年に入ったとたんに、全世界が新型コロナウイルス感染症拡大に見舞われました。2010年から10年間漸減していた自殺者数は、2020年に増加してしまいました。この間、国の自殺総合対策大綱は二度大きく改訂され、今や、全国都道府県政令市だけでなく市区町村レベルにおいても、自殺対策行動計画を立て自殺対策を実践する世の中になり、自殺対策に関する調査・研究も以前と比べると、だいぶ広がってきています。科学的根拠を有する、「自殺予防医療」といえるものも生み出されました。しかし、残念ながら、医療における自殺対策は、自殺対策を取り巻く社会に追いつくほどには進展はしていないように、筆者には思われます。

 

 「患者の病気だけをみるのではなく、人としての患者全体をみなければならない」と、私たち医療者は何度、聴かされ、また言ってきたことでしょう。そのために、私たちは何をしてきたのでしょうか。確かに患者への接遇が大事にされ、医療サービスも拡張し続けています。しかし、それらが表面的なものにとどまるのだとすれば、真の患者支援とはなりません。自殺事故は、患者が抱えてきた苦悩に係る悲劇的ストーリーの最悪の結末です。逆に、患者を自殺から守るためには、その患者が苦悩していることを真に理解し、真に役に立つ具体的な問題解決アプローチをしていかなければなりません。つまり、患者の自殺対策を考えることは、真に患者のメンタルヘルス支援と生活支援を行うことにほかならないのです。

 

 本書を手にして、1人でも多くの入院患者にメンタルヘルス支援と自殺予防を手がける医療者が増えることを、筆者は願うばかりです。

 

 

河西千秋

院内自殺の予防と事後対応に関する検討会 座長

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