公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会

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活動成果

【掲載日】2019年11月12日(火)

[開催報告]ポジティブアプローチワークショップ(試行)(10/26)を開催しました

【開催日】 2019年10月26日(土)
【部会名】 教育プログラム部会

活動成果

 10月26日にポジティブアプローチの研修会の試行版を実施しました。なぜこの研修会が企画されたかということについて少し説明します。医療安全対策として多くの病院で行われていることは、医療安全管理者を任命し医療安全に関する委員会を開催すること、インシデントレポートの提出を求め集計するとともに分析や対策立案を行うこと、職員に対する研修を実施することなどです。すべての病院でインシデントレポートが出されていると思われますが、提出されたレポートをどのように活用するかについては統一の見解がありません。またいまだに事故報告書として反省文的なものが求められていると考えている職員も多数いますし、安全管理者自身もそういった考えから脱却できていない人もいます。

 今回の研修会ではそういった考え方を変えてみたいという意図がありました。過去に発生した事故事例を深く分析し再発予防策を策定することは安全対策として非常に重要なことです。そのために安全管理者がレポートの提出を現場に強く求め、その内容について「上から」ヒアリングし、分析や対策立案を現場に強く求めることが行われますが、この考え方だけを徹底していくと、現場スタッフに対して安全管理者が抑圧的に働いてしまうということがあります。

 こういった抑圧的な雰囲気は現場に決してよい影響を及ぼしていないと思います。嫌々レポートを書かされるスタッフからすれば、起こった事象に真剣に向き合う気持ちも起こらないでしょう。とりあえず何か対策を書かなくてはならないとなると、「確認する」とか「ダブルチェック」するといったお決まりの対策案が出てきます。これらは決して健全なことではないと思います。私達はいつからかこういった雰囲気を作ってしまったのでしょうか。

 こういった雰囲気や空気を「後ろ向き」の安全対策と呼びます。これに対して私達は「前向き」の安全対策を目指すべきだと考えました。そしてこれを進めるためには最近の安全に対する考え方であるレジリエンスエンジニアリングやポジティブ心理学、心理的安全性やJust Cultureといったものを利用することがよいと考えました。

 今回の研修では、近畿大学の辰巳教授と部会長の私の二人で導入のための講義を行い、参加者から募った実物のインシデントレポートを素材としてグループディスカッションを行いました。あくまで試行版なので時間も不十分でワークショップのやり方も稚拙ではありましたが、それなりの手応えもありました。今後はさらなる改善を図って研修会を企画する予定です。

教育プログラム部会長 長谷川 剛
(医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院  情報管理特任副院長)

 

講師より

 ポジティブアプローチの研修会の試行版について,基本的な想いは,長谷川先生のコメントの通りです。その上で,実際に運営に携わって心に残ったことが二つありました。一つは,「ポジティブアプローチの意味づけ」の難しさと,それを参加している皆さんと共有することの難しさについてです。もう一つは,医療安全のネガティブの根底かも知れない「100%感」言い換えると「完璧主義」についてです。

 「ポジティブアプローチの意味づけ」の難しさを感じた理由は,参加している皆さんが講義を聴いていて,理解しやすい,あるいは,心に残った内容の一部をもって「ポジティブアプローチ」と解釈しないだろうかと気になったからです。勿論,私たちも試行錯誤中ですが,例えば参加した皆さんの中には「Safety-I」をネガティブ,「Safety-II」をポジティブと認識した方がおられたのではないでしょうか。確かに「Safety-II」は,うまくいく理由を探すという面ではポジティブであり,事例をSafety-II的に考えることは重要です。ただ,「Safety-I」的な内容を,視点を変え,前向きな考え方にすることもポジティブなアプローチのように思うのです。「Just Culture」の講義の中の,「正義(justice)ではなく,公正な文化(just culture)を目指す」という一文の重要性を感じます。医療安全が正義で,事故当事者が悪ではないと理解すれば,「誰を直す(改善させる)」から「何が本質?」「何を直す」に目が向きやすくなるかな?と思います。

 「完璧主義」については,例えば,「すべての事例でSafety-II的に解釈できない」とか「完全には予防できない」という意見が漏れ聞こえたように思います。医療事故は100%防ぐことはできないことを前提に,確実に事故が減らせそうな対策を模索していくわけで,絶対的な理論はないと思います。できるだけSafety-II的に考えて,無理な事例についてはSafety-I 的なものを「~しない」と考えないで「~出来る方法を考える」と考えれば,少し空気が変わるのではないでしょうか?そして,その背景の「責めない空気づくり」を意識する事の重要性をもう少し掘り下げたいものです。

教育プログラム部会員 辰巳 陽一
(近畿大学病院 安全管理部・医療安全対策室 教授 病院長補佐)

 

ファシリテーターより

 今回のワークショップでは、インシデントも見方を変えることでポジティブなフィードバックを可能にすることがよく理解できました。医療安全管理者のポジティブフィードバックがあってこそ、報告する文化、公正な文化、学習する文化を醸成できると、少し先が開けたように感じました。

教育プログラム部会員 廣幸 英子
(特定医療法人 寿栄会 有馬高原病院 看護部 看護師長)


 

 毎日のように提出されるインシデントレポートとどのように向き合うかということは、医療安全管理者にとって大きな課題だと痛感しています。今回のワークショップで、医療安全管理者自身のとらえ方によって、現場へポジティブなアプローチができ、前向きな対策に繋げることができるのではないかと感じました。

教育プログラム部会員 大久保 典子
(地方独立行政法人 下関市立市民病院 医療安全対策室 主査 看護師長)


 

 いわゆる「ベストプラクティス」や「ポジティブインシデント」といった、「事故を未然に防ぐことができた事例をポジティブな事象として取り上げる」取り組みは既に多くの病院で取り入れていると思うが、今回のワークショップで提案された「ポジティブアプローチ」は、それらとは大きく異なる新しい概念でした。半日という短い時間の間に詰め込まれた多くのレクチャーとグループワークは、すべてのグループに発表の機会が与えられないなど時間不足の印象が強く、正直なところ「もっと時間をかけて学びたい」という消化不良な思いを抱えて帰路についた参加者も多かったものと思います。今回のワークショップで提案された「発生した事例をSafety-2の視点からポジティブに分析することによって、その組織のレジリエントな能力を評価し、高めてゆく」取り組みは、我が国の今後の医療安全の発展にとって非常に重要な視点であると感じたとともに、今回は試行という事で、日程の見直しを含めて本ワークショップが更に充実してゆく事を期待します。

教育プログラム部会員 長島 久
(富山大学附属病院 医療の質・安全推進部 部長)


 

 長谷川先生の「レジリエンスエンジニアリング概論」、「ジャストカルチャー(公正な文化)概論」、辰巳先生の「前向きな事例分析(ポジティブインシデントレポート)活用方法」の講義後、「実践に向けての障害とそれを乗り越える為の方策」のグループワークとなり、講義から自分なりのポイントとして、「うまく行く状態にするには。責めないこと。結果ではなく行程を評価する。聞き取りの際は想いを寄せる」を意識し、考えながらグループワークに参加させていただきました。

 半日の研修会開催でしたが講義資料は大変貴重であり、両先生の講義を振り返りながら後日その一冊を読み込むことで頭の中が整理されていき学びが深まっていきます。今回、研修会に参加された方々も研修会を振り返りテキストを再度読み込み、さらに学びを深め前向きなインシデントレポートへのアプローチに取り入れられていると思います。

教育プログラム部会員 皆川 宗輝
(横浜市立みなと赤十字病院 臨床工学部 技師長)


 

 インシデント報告は,隠れた問題を発見し事故を未然に防ぐことが目的ですが,気づきにくい「問題の指摘」やそれへの「適応的対応」への工夫などの情報も含まれていることが少なくありません.ポシティブアプローチはそれらに着目し称賛する姿勢であり,今回の演習を通して,報告する現場の作業者と解析・活用を推進する管理者の両者を前向きの気持ちにさせ,報告制度を活用したくなる仕掛けになり得ると実感しました.

教育プログラム部会員 田中 健次
(電気通信大学 大学院情報処理工学研究科 情報学専攻 教授)


 

 今回のワークショップでは、Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱどちらかのみに偏らず、インシデントレポートを前にした時に、医療安全管理者としてどのようにレポートを読み解き対応していくのが良いのか、たくさんのヒントがもらえたのではないかと思います。また、ポジティブインシデントレポートについての取り組みも、既に実施しておられる施設も多いと思いますが、どのようにアプローチしたらよいのか悩みながら取り組んでおられる医療安全管理者に対しても、大変参考になる内容であったと思います。また、参加者から実際のインシデントレポートを募り対応を検討していくグループディスカッションは、とても新鮮で興味深く参加者の皆さんもとても熱心に語られておりました。時間が短かかったのは残念でしたが、その後の実践での活動の一助になっていたらうれしく思います。

 このワークショップは、医療安全の活動がネガティブに感じられ、苦しく思っている医療安全管理者の方がおられたら、少し気持ちが楽になる研修でもあると感じます。今後も継続して開催され、多くの医療安全管理者の方にもご参加いただきたい内容であると思いました。

教育プログラム部会員 高塚 由紀子
(社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院 安全管理室 課長)

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